キャンパスの樹木
ゲッケイジュ
ゲッケイジュ(月桂樹)は、クスノキ科の常緑高木。別称はローレル。
原産地は地中海沿岸および西アジアで、日本には明治末に渡来し、
記念樹や庭木として多く植えられている。高さは7~20メートル、花期は4~5月、
雌雄異株で淡横色の気品のある花が咲く。葉には芳香があり、
料理の香味料としてなじみ深いだけでなく、油や薬もとれる。
この木が日本で愛好され普及したのは、その美しさと有益性のみでなく、ギリシャ神話にちなむ霊木、
競技勝利者を讃える木としてのプラスイメージが大きく影響していると思われる。
「月桂冠(桂冠)」や「桂冠詩人」という言葉がそれを示している。
ちなみにこの木の花言葉は「栄光・勝利」である。
ところでわが今出川キャンパスでも戦前から大学および女子部を問わず
ゲッケイジュは記念樹木や寄贈樹木として多く植えられた。
たとえば記念植樹では、同志社創立五十周年(一九二五年)記念でのクラーク記念館前の
ラーネッド博士と海老名弾正総長等によるものがよく知られている、
また寄贈植樹としては、「新島遺品庫」の周辺に植樹されたものが注目される。
これはわが学園の多くの植樹の中でもっとも麗しい事例であると思われる。
新島遺品庫は大学と女子部あわせた今出川校地のほぼ中央に位置する。
そこには新島先生の遺品をはじめ貴重な関係資料が多数所蔵されている。
日ごろ目立たない小さな建物であるが、ここはいわば同志社精神の中心であり源泉である。
この建物が建てられたのは戦局厳しい一九四二(昭和十七)年十一月のことで、
当時新島関係資料の散逸を防ぐために保存施設の建設が待望されていた。
この時、建築費を献納したのが池田庄太郎氏(大正五年同志社普通学校卒、会社重役、
同志社頌栄会会員、昭和五十三年逝去)であった。
この池田氏が、ふたたび一九六九(昭和四十四)年一月に
ゲッケイジュ十本と遺品庫保存のために多額の寄付をされた。
この時にゲッケイジュは遺品庫を囲むように植樹されたが、
現在残っているのは残念ながら三本のみである。
池田氏は遺品庫を「月桂冠」で美しく飾り、風雪から保護したかったのであろう。
彼の名は遺品庫前壁と木の側石柱に刻まれている。
池田氏の親友で新島研究の第一人者であった森中章光氏は、池田氏を
「同志社精神をしっかりとつかみ取った男子」と評し、遺品庫についても
「君の献納した遺品庫はダイヤモンドのように光輝を放っている」と追悼の辞に述べた。
今日なおゲッケイジュは池田氏の愛校心に応え、遺品庫を静かに見守っている。
(元大学社会学部教授 宇治郷毅)
(参考文献)「月桂樹の寄贈」『同志社時報』三十四号、昭和四十四年三月
森中章光「大仙池田庄太郎君」(上)(下)『The Do shisha Times』昭和五十三年十一月~十二月、
本井康博「ゲッケイジュ(キャンパスの樹々 一六)」『同志社時報』一一七号、
平成十六年三月、植物文化研究会編『図説花と樹の事典』柏書房、平成十七年