秩父は濃い緑につつまれていた。
真夏を思わせる澄んだ蒼空から降り注ぐ陽の光が山あいの緑の群落をまばゆく撥ねていた。209号線、299号線を行き来して峠にさしかかるたび、武甲山や両神山までもくっきりと見わたすことができた。
札所観音巡りの第2回のメインは法性寺、観音院、菊水寺を巡るのだが、とんでもない山のなかにある。秩父 市とはいえ市街から遠く離れた小鹿野、吉田地区である。コース設定では路線バスを乗り継いでゆくことになっているが、秩父には観光用のジャンボタクシーな るものがある。ワゴン車を利用したもので9人まで乗車できる。今回はこのジャンボタクシーで西武秩父から出発した。帰途は土・日のみ運行の秩父鉄道SLパ レオエクスプレスに乗るという贅沢なもくろみがあって、列車の定刻に遅れないようにという配慮からである。
かくしてジャンボタクシーのドライバー・Kさんが同行者となり、ガイドとしてもサポートしてくれた。われらにわか遍路にとっては力強いものがあった。
法性寺では観音堂につづく苔生した石段を静々と歩いた。ふとゆくての山を見あげれば、はるか山奥のそそり 立つ岩上で観音さまが微笑んでいらっしゃる。ここまでおいで、天空遠くの良いところへ連れて行ってあげる、と言いたげな甘美なささやきに誘惑されそうにな る。そんな幻想、いや妄想をふりきって、遠望による礼拝でなんとか応分のご利益にあづかることにした。
<法性寺>
観音院では巨大な石造りの仁王像にむかえられ、そこから、つづら折れの石段を登った。降りてくる参拝者と 行き交うたびに休みながらひたすら歩を運ぶ。296段あるというのだが、およそ6~7分でメンバーは苦もなくのぼりきってしまった。観音堂の背後にある大 きな岩壁、落差30メートルほどの聖浄の滝は最近の雨で水かさを増していた。滝壺の周りに揺れるかすかな虹、なんとも神秘的な雰囲気がただよっていた。
<296段を登り辿り着きました> <観音院>
今回はジャンボタクを使ったとはいえ、山道が多く、険阻な石段もあって負荷のかかる行程だったが、のちに 聞くところでは、万歩計をもってるメンバーのひとりが「なんだ、5000歩にも満たないじゃないか」と一笑に付してしまったという。そこに3回目以降をみ すえた幹事氏の戦略が見え隠れしている。
山路を歩きながら、石段を登りながら、いくつもの句碑や石碑、石像にふと足をとめ、山肌の草花をみつけて「おっ」と立ちどまった。咲きほこる紫陽花の藍が眼にしみて、心癒やされる思いにひたった。
おりしも菊水寺の境内には芭蕉の句碑があった。菊にちなんで「寒菊や粉糠のかかる臼の端」という晩年の句 が刻まれている。何気ない日常の身辺にこそ、ほんとうに美しいものがあるといいたげである。人生も同じだ。われらが無意識のうちに遍路をつづけているの は、そんな境地に達するためなのだろう。
<菊水寺>
<野坂寺>
<SL> <SLに乗車したメンバー>
秩父駅でSLに乗りこんだ同行7人、熊谷経由で都心の向かう童心にもどった人生の達人たちをホームで見送りながら、ふと、そんなことを考えていた。
文責 福本武久
写真 福本武久 小川 彪
◇東京40会「心のやすらぎ・巡礼の旅」 第2回
・日 時 :2014年06月15日(日)11:00
・集合場所 :西武秩父駅
・天 候 :晴れ
・参 加 者 :8人
・コ ー ス :秩父駅⇒法性寺⇒観音院⇒観音茶屋(昼食)⇒菊水寺⇒野坂寺
<あとがき>
日本百観音(秩父三十四、坂東三十三、西国三十三)の内、午歳の本年は秩父と坂東札所で特別拝観が行われ ています。普段は見ることのできないお厨子の扉が開かれます。大廻り60年に一度の甲午総開帳の記念年、一仏一会の心躍る瞬間です。今回の2回催行で十観 音のご利益をいただきました。あと四回の心の旅、どのような出会いが待っているのでしょうか。
(世話人より)