【著書紹介】 『漂巽紀畧』 【講談社学術文庫】
谷村鯛夢(和典)さん〔1972年(昭和47年)文学部卒、東京校友会常任幹事〕の著書のご紹介です。
皆さんへ
江戸後期、14歳での出漁中、足摺沖で遭難、室戸岬を最後の土佐の姿と見ての漂流以来、
アメリカ捕鯨船に救助され、アメリカ東部で日本人ではじめて「市民レベルの教育」を受け、
捕鯨船幹部船員となって世界の海をめぐり、まさに鎖国の幕末日本からすれば
「40年先の未来社会」で生きて、そして12年ぶりに奇跡の帰郷を果たした「ジョン万次郞」。
そのジョン万次郎の土佐への帰国直後の語り下ろしを、あの坂本龍馬の「先生」河田小龍が聞き取り、
絵入りで書きまとめた 「漂巽紀畧 ひょうそんきりゃく」を谷村鯛夢(私です)の全現代語訳、
ジョン万研究の第一人者北代淳二さんの監修で、 講談社の学術文庫(¥800)から
(12月10日発売)刊行する運びとなりました(アマゾンは12日から)。
「漂巽紀畧」は、すべての“ジョン万次郎”物語のルーツとなった書物ですので
「面白くないわけがない」のですが、それより何より、あの山内容堂を驚かせ、
幕末の緒大名を驚かせ、幕府を驚かせた 本邦初の、
本格的「西洋事情」ドキュメンタリーであったと思います。
遭難という偶然ではあったものの(これが万次郞の、いわばタイムマシーン)、
この頭のよい、生命力に優れたこの少年は「デモクラシーのアメリカで初めて市民レベルの
教育を受けた日本人」となり、当時のグローバル産業(メルビルの“白鯨”と全く同時代)であった
捕鯨船の幹部船員になって、スエズもパナマもまだ抜けていなかった時代の世界中の海をめぐり、
合衆国東部海岸の先進都市ボストン近郊を中心に10年を暮し、
ゴールドラッシュのカリフォルニアで自ら金を掘って帰国資金を一気に作り、
そしてハワイ経由で帰国(身分社会の日本へ逆戻り)を果たすわけですから、
「40年先の未来社会」とのタイムスリップ、バックツーザフューチャー物語といっても
過言ではないと思います。
だからこそ、この信じられない知識と技術を身につけて帰ってきた
(ペリー来 航の直前という奇跡、とは司馬遼太郎氏の言) この元漁師を抱えこもうとして
土佐藩はすぐに藩士とし、それをすぐに幕府は直参旗本として抜いていったわけです。
そうった極めて文化的価値の高い書物なのに、これまで研究者が抱え込みすぎ、
という感じがありましたので、 私としては、「古事記」や「解体新書」などの現代語訳がある、
講談社の看板文庫である学術文庫に入れて、この書物の価値を位置づけようと思ったわけです。
その上で、この壮大な幕末の壮大なドキュメンタリー、とんでもない見聞録を
誰でも読める物にしたい(だいたい、題名が読めない・笑)、
特に若い人が手に入れやすい廉価な文庫本で普及させたい、
という思いを込めたプロジェクトにしました。
2年かかりましたが、まあ満足しています。
当方の出版プロデューサー、編集者、文筆家としての「晩年(笑)」で、
文化史的出版物に一石を投じられたかな、と思っています。
ぜひ、お手にとってご覧いただき、ご支援を頂ければ幸甚と存じます。
よろしくお願い申し上げます。
谷村鯛夢(和典) 1972年・文学部・美学芸術学学科卒 2018年12月吉日